スキルポイントの配布は終焉の始まりなのか?

ここは余白が広い。


ここ最近、スキルポイント(以後SPになったりならなかったりする)の配布が多いことは誰もが感じていることであろう。
SP配布を好意的に受け取る人もいるが、一方で良からぬことの前兆ではないかと訝しむ人もいる。
サービス終了前のオンラインゲームやソーシャルゲームがアイテムをバラまくのと同様の危機感を感じているのだろう。
かくいう私もサービス終了が近いのではないかと思っていた人間である。
CCPはやたらと人材のリストラ、VR部門の撤退(最近復活したけど)、スタジオの閉鎖など事業の縮小を行っており、経営が厳しいのではないかと感じるのはEVEプレイヤーであれば当然のことだろう。
このような流れの中ではSP配布がEVEサービス終了前の足掻きと映るのは致し方のないことだ。

しかし、どうもSP配布は足掻きではなくちゃんとした施策なのではないかと説明するにはやや不足だが、まぁそれなりに納得は出来そうな感じに考えがまとまったので与太話程度と思って読んでいただきたい。


この話をするにあたり、重要なのはCCPの経営状況ではなく、ニューエデンそのものの経済状況である。
付随するキーワードとして"ISK価値のコントロール"がとても重要な位置を占めていて、最近のCCPの行動理念は全てこれに帰結すると言っても過言ではない。

真面目にニューエデンの経済を語るだけでも1つどころか全3回くらいのブログネタに出来るほど長くなるので心持ち控えめでザックリ解説する。

 かつてEVE経済は実際の経済学にも使われる程緻密でリアルなマーケットを成していたが、近年ではISKの供給過多、または回収能力不足でインフレし続けている。これは経済月次レポートを見れば一目瞭然と言えるだろう。

なかでも多額のISKを今この瞬間にでも(と言いつつもここ書いてるときはちょうどDTだったので嘘になるが)生み出し続けているのがヌルセクである。
始めて数週間のプレイヤーでも少しの元手と少しのトレーニングで時給15mは下らない稼ぎを産むことができる。中級者以降であれば尚更だ。
ISKの6割近くはNPCバウンティにより無から生まれ続ける。そしてこのバウンティを生み出すのがヌルセクである。
ISK増減の内訳
リージョン別NPCバウンティ支払額
(ちなみに、6月は北部出兵の影響かDelveがおとなしいが、いつもはヤバイのである意味外れ月のレポートとなっている)

ヌルセク領土とは各アライアンスの努力の結晶であるからして、批判の対象とすることは出来ないが、経済という観点から見ると現状は癌そのものである。
個人的にはSP配布なんかよりもヌルセクのISK生産量のほうがよっぽどサンドボックスに悪影響を与えていると思うのだがこれについては論旨から外れかねないので深く突っ込まないものとしておく。

この経済の問題にCCPは主に2つの手段を用いて解決を図っている。
1つは破壊によるISKの消失機会の増加、これはFAXのナーフやアビサルデッドスペースの実装が分かりやすい。
ISKが生まれるのと同様に消費していけば健全性は保たれるが、これはいまいち効果が薄かったようだ。
いまいちすぎたせいかNPC艦隊が積極的にストラクチャバッシュを始めたりする迷走具合である。
もう1つがISK増加のコントロール、これは最近話題のVNIのリワークやCVのナーフ、アノマリの湧き抑制などが該当する。
直接的な対策だけあって効果は覿面で、現に3月アップデートでのファイター/NSAのナーフでNPCバウンティの支払いは確実に減った。
ISK増減の推移

というわけでCCPがISKのコントロールに躍起になっているということを念頭に置いた上で本論へ。


さて、ISKのインフレが起きていると言ったが、普段使いの船やモジュールは値上がりしているかと言われると答えはNOだ。
ならば増えたISKは何に影響を与えているのか。
答えはPLEXである。
私がEVEを始めた4年前、PLEXは800mほどだったが、今となっては1.8bほどにまで膨れ上がってしまった。(もっとも、AURUMの統合だったり500分割による入手のしやすさなどの影響は否定できないけれども。)
アクティブなISK量とPLEX価格がほぼ同様の推移を見せているのは決して偶然ではないはずだ。

値上がりし続けたPLEXはようやく価格が落ち着いてきた。
この要因が何なのかははっきりしない。
Ratter御用達のVNIのリワークという1つの出来事によるものかもしれないし、ドリフターの活発化によるストラクチャバッシュの影響を受けてのGoonsの北部キャンペーン撤収という複合的な出来事によるものかもしれない。
何れにせよ、そこにはヌルセクが常にあり、PLEXとヌルセクという関係は歪な形でニューエデン経済を悩ませている。

PLEX単体にのみ影響するならばさして大きな問題ではないが、ヌルセクの気まぐれで値上がりするPLEXはPLEXで買うことのできる商品にまで影響してしまった。
その一つが今回の主役であるSPである。
SPはどんなに頑張っても1月で入手できる量が限られてくるので、下限価格はある程度決まってくるが、逆に言えば上限と言うものは神の見えざる手によっていくらでもハネ上げることができてしまう。
スキルトレードはヌルセクの生み出す膨大な資金力によって常に左右され、スキルトレードで強大化する富める者と、そうでない者に分かれてしまったように思える。

元々スキルトレードはMMOでは避けて通れない古参と新参のキャラクタースキルの差を埋める側面もあったはずだ。
しかし、実際に蓋を開けてみればそうはならずにむしろ格差を広げるだけであった。
もちろんこうなることを想定していなかったのならばそれは無能というより他にないのだが、後にスモールスキルインジェクターやデイリーアルファインジェクターを実装していることから改善の意思はあったらしい。

腐っても経済ゲームなのでマーケットを介してしまうとどうしても所得の格差が影響してしまう。
そこでCCPはSPの配布という手段に舵を切ったのではないだろうか?
主張に行き着くまでが長いのはご容赦いただきたい。

ここで、誰もが平等に定額のSPを手に入れるのでは格差が埋まることは無いのではないかとお考えの方もいらっしゃるだろう。
確かに、スキルインジェクターには所有SPに応じて取得できるSPが変わるというセーフティとも言える仕組みがあるが、一律配布では取得量に差はでない。
この問題はEVEのSPシステムが効いてくる。
スキルレベルは全く効果のないレベル0から最大のレベル5まであるが、レベルが上がるごとにスキル取得に必要なSPは増加していき、レベル4から5に必要なSPは今までの取得量にの5倍近い数値が必要になる。
と、話し続けても良いが正直分かりにくいと思うので簡単な例としてスキル係数1のスキルを初心者と経験者を比べてみる。

ログインボーナスで25,000SPを初心者と経験者どちらも一様に貰ったとする。
初心者にとっての25,000SPは非常に価値あるものだ。
何故なら持っていないスキル係数1のスキルを一気に3まで上げられるからだ。
一方で経験者にとっての25,000SPは雀の涙程の意味合いしかない。
係数1のスキルであっても、スキルレベル4のスキルを5に上げるためにはそれっぽっちではどうにもならないからだ。
スキル取得に必要な時間は増加し続けるが、スキルが与える影響は一律であるため、一般化して考えればレベル4までスキルを取り続けることで経験者に近い戦闘力を素早く得ることができる。
MMOで避けて通れない古参とのスキル量の差を埋めることは難しいが、スキルボーナスによる実際の戦闘力は古参に肉薄することができるのだ。

SP配布という方針はDLCの内容からも伺える。
今までのDLCというとアパレルやSKINとPLEX・ゲームタイムがセットになったようなものなのだが、最近新しく発売された物にはSPが付属している。
DLCの触れ込みも新人カプセラを対象にしたもので、SP配布は今後のメインストリームになるのではないかと思う。


サービスインから15年が過ぎて古参と新参との差は絶対的なものとなっている。
マーケットによるスキルトレードは初心者の手助けとは言いづらく、富める者たちの気まぐれで動くジャジャ馬だ。
そこでCCPが指した一手はSP配布だった。
定量のSPはプレイヤーによってその価値は変量となる。
貰えるSPではまともにスキルが取れないと感じ始めたとき、もうそのカプセラは新人ではなくなるだろう。
SPの配布は終焉の始まりではなく、新たなプレイヤーたちに向けた新しい土壌の創生と言えるのではないだろうか。